あの時言い淀んだこと

こちらからお題とインスピレーションをいただきました。



 鼻毛が見えている。


 友達のかよこちゃんの顔を見た瞬間、私は固まってしまった。

 かよこちゃんは優しくて、明るくて、賢くて、とっても綺麗な女の子。
 肌は白くてすべすべだし、長い髪はサラサラ。
 クラスのみんなの憧れの彼女が、私に話しかけてきてくれたのだ!

 なのに、鼻毛が見えている。
 それも、サインペンの細字と太字の中間ぐらいのぶっといのが。

 えっ、あのかよこちゃんの可憐な鼻の穴から?
 嘘でしょ。

「おはよう、まなちゃん。色付きリップ付けてきたんだね、似合ってるよ!」

 ――あなたの毛付き鼻柱は似合ってないよ!

 そうは思うが、素敵な笑顔を目の前にしてそんなことは言えない。
 どうせなら今日じゃない日に話しかけてきて欲しかったというのに。
 なんで色付きリップを付けたのが今日なんだろう。
 私は今朝の私を恨んだ。
 どうせなら昨日か、恐らく気付いて処理を済ませただろう明日にしてくればよかったのに!

 せっかくの素敵な笑顔よりも、今は顔の真ん中の黒い線に意識が行ってしまう。

 いや、あれ。
 この鼻毛、なんか動いてない?

 よく見るとかよこちゃんの鼻から覗く異物ともいえる物体がふわふわと揺らめいてる。
 鼻毛とはいえかよこちゃんから生えているものだと思えば、風に吹かれる1輪の鼻、じゃなかった花を連想できないこともないけれど……。

 ん? ちょっと、これって。
 かよこちゃんの呼吸とぴったり動きが合ってない?

 彼女が息を吸っただろうタイミングで毛先が上に向かって、
 吐いただろうタイミングでぴんと伸びた状態で小刻みにぴろぴろぴろーっと揺れている。

 やめて。……やめて。
 流石に笑っちゃうから。
 もう美少女とかどうでもよくなっちゃうから!

 私が鼻毛と同じようにぷるぷるしながら笑いを堪えていると、どこからともなく美味しそうな匂いが漂ってきた。
 これは、からあげ?
 いや、違うな。これと同じ匂いをマクロッテリナルドで嗅いだ記憶が――

ー、ナゲットなんか朝っぱらから教室で食べないでよ」

 どこからか飛ばされた野次を聞いた瞬間、我慢の限界に達した。
 いきなり吹き出した私をかよこちゃんが覗き込んでくる。

「どうしたの、大丈夫?」

 不安げに寄せられた眉根。
 眉の形は整っていて、細いのに薄いという訳じゃない。
 利発そうな目元に、唇はふっくら桜色。
 その瞳と唇の間にあるのは、決して低くはないのに小振りな鼻と――飛び出す鼻毛。

 やめて、やめて……心配してくれるのは嬉しいけど、それは反則なんだって。
 だめ、だめ……。
 今、その、顔を、近付けないで!

「かよこからも男子に言ってやってよ! ……あれ、どうしたの?」

 今度こそ声を上げて笑い出しそうになった時、かよこちゃんの横からクラスメートが彼女を呼んだ。
 さっき、ナゲットを食べだした男子を注意していた女子だ。
 かよこちゃんの意識がそちらへ向く。
 あっ、だめっ、今振り向いたら被害者が――

「って、かよこ鼻毛出てるって!」

 かよこちゃんと顔を合わせた瞬間、あろうことかこのクソアマははっきり真実を述べやがった。
 目に見えてかよこちゃんが動揺しだす。

「えっ。うそっ」

 慌てた様子でそう言いながら、ポケットから折り畳み鏡を取り出している。
 私の中で、大事に大事に守っていた何かががらがらと崩れていく音が響いた。

 ああ、終わった。
 なんとか傷付けまいと頑張っていた努力の全てが、アホなクラスメートの一言でいとも容易く無駄になるなんて……。

 ところが。

「あぁー、これひじきだ!」

 かよこちゃんは笑っていた。
 ……は? ひじき?

「今朝食べてる最中、なんか鼻がむずむずするなーって思ってたんだよねぇ」

 かよこちゃんは、今度はティッシュを取り出すと鼻を拭った。

「ほら」

 すると、あら不思議。鼻毛はかよこちゃんの顔から綺麗さっぱり消え失せていたのだ!
 えっ、ほんとに? ほんとにひじきだったの?

「なぁんだ、ひじきかー」

 クラスメートも納得した様子だった。
 ……まじで?

 それどころか「教えてくれてありがとー」と、クラスメートがかよこちゃんから感謝されている。
 ま、まじか。こうなるとわかっていたら、私が指摘していたのに……!

 でも私は人知れず胸を撫で下ろしていた。

 ずっと揺れる鼻毛だと思っていたのが実はひじきだったなんて。
 早とちりって怖い。
 そうだよな、かよこちゃんは美少女なんだから。

 でもそこまで考えて、思い至ることがあった。
 あの鼻毛、じゃなかったひじきは――かよこちゃんの呼吸に合わせて揺れていた。

 手を振ってから去っていくかよこちゃんの後ろ姿を、驚愕に見開いた目で見送る。


 かよこちゃん、鼻息荒かったんだな。
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救世主になる話

深夜テンションで書いた。勢いで上げます。
見直しはしたけどちゃんとはしてない。

後悔なんかしないもん。



 ――物語を書かないと世界が崩壊する!

 そんな恐ろしい文言が頭に浮かんだ私は、今、執筆に勤しむべくパソコンの前に座ったのだった。
 しかし重大な問題がある。
 私には物語を書いたことなどない!!

 妄想ならよくしている。
 今1番のフェイバリットは、私は実は王族の血を引く一族の末裔で、顔を合わせば喧嘩ばかりしていたクラスメートがこれまた実は前世で自分の恋人だったと知って以来、彼と一国を築くべく一念発起するという内容で――

 ああっ、今はそれどころではない!
 窓の外に目を向けると、庭に植えられた松の木が1本、急速な勢いで枯れ出していた。
 やはりふと降り立った感覚は単なる妄想ではなかったのだ。
 なんでもいい、何か書かなければ世界が崩壊する。地球の未来は私の手にかかっているのだ!

 私は「メモ帳」を立ち上げると、手当たり次第にキーボードを叩き始めた。
 モニタに文字が打ち込まれる。

「hzふぃhfsjfぃあh;hgじlgh」

 庭の木が粉塵の如く崩れ落ちた。

 ああっ、世界が……世界が崩壊する!

 落ち着け私。
 人生に1度あるかないかという状況にいきなり陥って混乱するのはしょうがないことだが、焦ったってどうにもならないぞ。
 文字を打てばいいという訳じゃないのだ。
 書くべきはっ、物語っ、なのであるっ。
 急げー。

"I am descendant of the royal family.
He is a classmate.
He was a past lover.
We intend to build a country."

 お隣さんの庭でボール遊びをしていた子供が一瞬でミイラと化した。

 えぇっ、これもだめなの?
 英語の教材みたいな英文のせいだろうか。
 そもそも私は英語が得意じゃないのだ。
 それとも日本語じゃないといけないのだろうか。
 そういえば私は日本人なのだった。もっと言うと母国語しかできない。
 くそっ、どうして最初からお国言葉を使わなかったのか……!

「せやかて工藤、言うたやろが。ワイのジッジのジッジのそのまたジッジは王様なんや! 前世で結ばれてたワイらは無敵や! せや、建国したろ」

 我が家の半径50メートル以内の家屋が全て吹き飛んだ。

 うーん。お国言葉はだめだな、やっぱ。標準語でないと。ていうかそもそもお国言葉ですらないし。
 ちなみにクラスメートの名前は工藤である。変な薬を飲まされて子供になった探偵のことではない。

 しかし困った、何を書いたって崩壊を止められる気が全くしない!
 私は昨日の晩ご飯の献立を大声で叫びながら頭を抱えた。

 ああっ、だめだ……私に物語を書くだなんて、無理な話だったのだ!
 世界よ、ごめん……私に君はマモレナカッタ……。
 窓の外に巨大竜巻が渦巻いているのを眺めながら、私は己の無力さを嘆くしかなかった。

 ……ん? 無理な「話」だった……?

 その時、私に電流走る。
 そうだ、今のこの状況こそ物語足り得ないだろうか!
 天啓を得た私は勢いよく頭を上げると、破竹の勢いでキーボードを叩き出した。
 ありのままを書くのだ……偽らざる事実。イッツマイストーリー!! レリゴー、レリゴー。

 家の壁ががたがたと悲鳴を上げる。
 竜巻がすぐそこまで迫っている。
 それでも私はキーボードを叩く手を止めない。
 私がこれを書くのを辞めたら、世界は――私という物語は、終わってしまうのだ――

 窓が割れる――直前。
 それまで自宅を揺らしていたのが嘘だったかのように、ふっと竜巻が立ち消えた。
 私が現状を描写し終えた瞬間だった。

 雲の切れ間から日が射し、その光と熱が部屋の中にまで注がれる。
 ぽかぽかと暖かい。
 いつの間にか、屋根には雀が戻ってきていた。ちゅんちゅんと可愛らしい鳴き声を上げている。

 世界に、平和が戻っていた。

 閉じていた窓を開ける。爽やかな風に髪を揺らされた。
 私は殺風景になった自宅周辺を眺めながら、ぽつんと独り言を零した。

「世界とは犠牲の上に成り立つものであり、また同時に世界とは自分自身でもあるのだ……」

 こうして世界は、私の手によって救われたのだった。
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CrossingIf

「CP」のおまけSSを書いてみました。
本編NormalEnd後のお話です。

※本編未プレイの方には「何のこっちゃ」ってなるかもしれません

「続きを読む」からどうぞ。

公開終了しました。
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プロフィール

hanaco

Author:hanaco
滋賀在住。躁うつ気味。
趣味でノベルゲームつくってます!!作品は「ここについて」にリンク張ってます。

ほんとは書くより読む方が好きですが、読んでると書きたくなるよね。

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